ソーシャルWEB時代の注目ワードとして『O2O(Online To Offline)』がある。
消費者の購買活動はオンラインとオフラインで影響し合い、それぞれに関係性がある、といった意味や、オンラインの店舗と実店舗の個人の購買履歴(および活動履歴)を別のデータとして扱うのではなく、連携した一つの購買履歴として扱うといった意味で語られる。
主にはそういった意味で良いと思う。
要は『オンライン』で体験した事、『オフライン』で体験した事、それぞれが個別な体験ではなく『一人に統一化された体験』である事実に目と耳を向け、この事について考えてみたいと思う。
■「10代で妊娠」そんなテーマの映画の暗い想起イメージを変えたい
ハリウッド系の映画で「10代(高校生)での妊娠」がテーマとなった映画があった。
その映画が日本で上映する事になった頃、日本では「14才の母」が話題になって間もない時期でもあった。
そのため、その映画には最初に「暗いイメージ」というのが想起されてしまう環境にあった。
そもそも、日本は海外に比べ特にこういったテーマに対して暗いイメージを持ってしまいがちだ。
そんな中での上映であるため、そのイメージの払しょくが必要だった。
結論から言うと、「払しょくする事は不可能」です。
しかし、それは世の中全般に対してであり、一部の対象者に対してはそうではないのではないか、という感覚もあり、
その一部の対象者を集中的にターゲットにしたプロモーション企画が発足した。
その対象者というのが女子高生である。
■女子高生を証人とする為のオンラインとオフラインを繋ぐ連続体験
このプロモーション企画の主な目標は「当事者の意見を獲得する事」だった。
それは作品に対してプロモーションに携わるメディア、企画、配給の3社の中にある自信の表れであった。
事実、この作品は米国においても単館上映から始まり、クチコミによる評判が大きく、全国上映にまでになり、全米週間チャートのTOP3入りをした作品だった。
米国でも勿論、暗いイメージを持つ人も居るとは思うが、何よりもこういったテーマには『厳しい国』だった。
その中で認められたこの作品の『主人公のパワー』と『主人公を取り巻く家族や友人の明るさ』そして小気味良いジョーク(笑)はとてもセンスが良かった。
そんな自信の基、企画したのが女子高生を試写会に呼び、その後の一般公開までの間に『オンライン』と『オフライン』で活動して貰うという内容だった。
題して『女子高生宣伝部』である。
だが、この『女子高生宣伝部』というのは非常にハードルが高い。
なんせ、リアルに集まって活動をする宣伝部だからだ。
そして、なんといってもそれだけの作品の味方を作りださなければならないのだから、それだけの作品への興味関心と感動を持ってもらわなければならない。
そこで、女子高生の作品体験と興味関心を醸成し濾し(こし)出すシナリオとして以下の様なシナリオを3社で設定した。
≪オンライン≫
① 女子高生系無料ホームページ作成サイトとの2ヶ月にわたるタイアップページの企画運営をスタート、サイト内広告の大量露出(クリエイティブは複数ローテーション)
② 女子高生限定試写会プレゼントの他、かわいいデジタルコンテンツを無料ダウンロード可能に
≫オフライン≪
① コミュニティFMによる試写会プレゼント番組内告知と作品紹介
② 全国7都市での女子高生限定試写会キャラバン
③ 女子高生限定試写会への参加
≪オンライン≫
③ 試写会後のサンキューメールによる宣伝部参加者募集
④ アンコール試写会企画『1000拍手でアンコール試写会』を実施、今度は女子高生だけではなく、観てほしい人を好きなだけ呼んで良い試写会を企画
⑤ その他にも1000拍手を達成で応募できる特別なプレゼントを用意
⑥ 試写会の感想掲示板を設置し、当事者達のコメントを集める
↓
≫オフライン≪
④ アンコール試写会を実施し、女子高生を中心に来場へ取材を実施
⑤ 全国3か所の『女子高生宣伝部』による女子高生ご当地フライヤー作成バトル企画を発足、一般公開直前までブログでその様子を更新
↓
≪オンライン≫
⑥ オンラインにダウンロード可能なデジタルコンテンツを定期追加
⑦ 主演女優の来日企画として、主演女優に聞いてみたい女子高生が取材する女子高生的質問を募集開始
⑧ 性格検定コンテンツをアップ
↓
≫オフライン≪
⑥ 主演女優来日作品記者会見の様子を取材し、メディアへのPR開始
⑦ 同日に女子高生宣伝部による主演女優への独占取材を敢行、日米女子トークを展開
↓
≪オンライン≫
⑨ 宣伝部の活動進捗のブログ報告と、デザインしたフライヤーの実際の仕上がり状況や配布状況などをブログに更新
⑩ 一般公開を向かえ、その反響をブログで更新し、企画終了
↓
上記の様なオンラインとオフラインへと反復する企画を用意し、そのハブとしてターゲット当事者である女子高生の代行者である女子高生宣伝部を設置し、興味関心の継続を狙った。
■当事者だからこその『説得力』による作品性の裏付け、そしてクチコミ
ここで一番の嬉しい誤算だったのは、口すっぱくいっている当事者という点での誤算、そう、出産経験のある女子高生や妊娠中の女子高生、またそういった友人を持つ女子高生が試写会に集まり、作品の感想を熱く語ってくれた事だ。
その子達はオンラインだけではなく、オフラインで強い繋がりのある友人達を中心にクチコミを広め、学生という特殊なクローズコミュニティの中で評判として広がって行ったようだ。
クローズなのでそれがどの様にどれだけクチコミされたのか、知りたいが全てを把握する事ができず、アンコール試写会に来てくれた女子高生達の話しでしか実感をしていなかった。
そして一般公開第一週目、立ち見が出るほどの大盛況だった。
その中心となったのが女子高生の集客だった。
友人が務めるチェーン系映画館の話しでは、アルバイトの女の子の間でも話題になっていたらしく、女子高生の中でそれなりに話題ししている子は居たようだ。
こういった小さいコミュニティだがリアルの伝播力もオンラインでの伝播力も「メール」も使って広がって行く彼女らのBUZZは、計測こそできなかったがとても威力を感じた企画だった。
何よりも、『本当に当事者な女子高生』までがこの作品に興味を持ち、実際に観て感動してくれた。
その事実にこの企画に当たった当事者の中には目頭を熱くする人も少なくなかった。
作品のコンテンツ力が無ければ成されなかった事であるのは勿論だが、その作品のコンテンツ力を信じ、その力を最も評価してくれるターゲットの設定にも間違いが無かった事が本当に嬉しかった企画です。
尚、この作品はその後「ぴあ満足度」でも1位を獲得し、アカデミー賞も獲得した。
改めて今、やって良かった企画と思えるし、今もこの体験が礎になっている。
関係者各位には改めてお礼を言いたい。
■生活者は常に動いている~動的プロセス(ダイナミックプロセス)~
少しここで考えたいと思う。
上記でオンラインToオフラインのシナリオ事例を紹介したが、このオンラインToオフラインではソーシャルメディアが注目されている。
そして、そのソーシャルメディアは個人のメディアと言われており、パーソナライゼーションが急激に進んでいるという話しがある。
そこにリーチする事によってクチコミされて、いいね!される事でファンという事になる、という様な事が広く言われている。
では、ソーシャルメディアによってパーソナライゼーションは本当に進んでいるのでしょうか?
一つのパーソナライゼーションされたマーケティング施策の一つとして、ソーシャルメディア施策がありますが、それを実施する事でパーソナライゼーションなのでしょうか?
WEBでなされたブランド体験は、リアルな体験と比べると受容的であり、且つ、表層的であり、深い態度変容に結びつくようなブランドインパクトを与える事は基本的には無いと考える。
重要なのは、リアルとWEBを結びつけ、いかにして『リアルからWEBへ濾し(こし)出し』いかにして『WEBからリアルに濾し出す』のか。
この反復が常に動的である生活者のニーズの醸成、価値の醸成に繋がる。
このオンラインとオフラインの反復を作用を起こすには、自社におけるマーケティングパーツ(自社でコントロール可能なマーケティング領域)其々の役割を今一度再考する必要がある。
例えば『マーケティングの4P』においても勿論同様であり、
【4P】
1. 製品(Product)
⇒ 固定かつ大量生産の観点ではなく、個人にパーソナライズされた価値創造の方法論が必要(リード(顧客情報)の取得と活用が重要)
2. 価格(Price)
⇒ 個人に対し相対的且つ総合的な観点からのパフォーマンス提供が必要(市場における提供サービスの柔軟な適正価格化)
3. 流通(Place)
⇒ 物理的な流通やポジションの他に、心理的な流通やポジションを如何にして築くかが大事(顧客との接点としてソーシャルメディアの活用検討も重要)
4. プロモーション(Promotion)
⇒従来のプッシュ型ではなく、如何に顧客を引き込み、巻き込む事のできる企画が実施できるか(インバウンドマーケティング)
という様にプロセスを『動的』に捉えた考え方への転換が必要になるだろう。
■顧客体験 ~カスタマーエクスペリエンス~
生活者は様々なメディアがある中で、WEBを通じて多くの経験を得ています。
より多くの経験を提供する為、操作性(ユーザビリティ)、読みやすさ(リーダビリティ)、見つけやすさ(ファインダビリティ)の改善がより多くの経験向上へとつながります。
生活者はこの経験を通じて次のアクションへと繋がるのですが、この時に提供されている経験価値には5つあると言われています。
≪5つの経験価値≫
1. 知覚的経験価値(Sense)
⇒ 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触感といった五感を通した顧客の感覚に訴える経験価値。
飲食店だと『香り』や『店舗デザイン』がこれにあたる。
2. 感覚的経験価値(Feel)
⇒ 感情に対して訴えかける経験価値。
どのような心理状態での来訪になるのかを仮説設計しなければならない。
3. 創造的経験価値(Think)
⇒ 知性や好奇心に対して訴えかける経験価値。
企業やブランドの理念や歴史などがこれにあたる。
4. 行動的経験価値(Act)
⇒ 行動、身体、ライフスタイルなどに訴えかける経験価値。
ライフスタイル提案などがこれにあたる。
5. 準拠集団(Relate)
⇒ 集団、グループへの帰属意識に訴える。
ブランド品を所有する事の優越感など。
上記の事を動的プロセスも含め、どの様に提供できるのかを考えなければならない為、大企業になればなるほど、非常に大きな労力や判断力が必要とされます。
ソーシャルメディアを用いた施策を考える上で、リードの取得と活用方法を始め、個人をオンとオフの連続体験へと導くようなシナリオを作るには『個人』に対してのシナリオをソーシャルメディア内に限らず演出するコンテンツである必要がある。
そしてはそれはこれからの企業戦略上で非常に重要な位置づけにあり、短期的な戦術として捉えるのではなく、戦略として実行する事が望ましく、これらの検討なくしてソーシャルWEB時代の生活者とのコミュニケーションは難しいだろう。
まずは基本的な事だが、『当事者は誰か(顧客は誰か)』をしっかりと把握し、それすらをコンテンツとしても取り込む事を視野に入れられる事がこれからの『O2Oマーケティング』で重要になるだろう。