2012年5月7日月曜日
店舗の集客とロイヤリティ向上の考え方
昨今、サービス業関連の企業からも相談事が増えつつあり、サービス業における集客やブランディングについて考える機会が増えています。
そこで、自身が外食産業出身であり店舗のオペレーションも全般行い運営も行っていた立場から、たまには飲食店向けのエントリも書いてみたいと考え、今回は主に飲食店の視点で店舗のマーケティングについて考えた内容をエントリにしてみました。
■実店舗の商圏
飲食店や消費財販売における一般的な商圏は1Km(一次商圏)から5Km(二次商圏)と言われており、売上のほぼ50%が一次商圏で構成されると言われており、一次商圏を『最重要商圏』『重点商圏』というように位置付けるのが一般的だ。
これらの商圏で如何に集客できるかが店舗における重要課題である事は、店舗を持つ経営者の共通の課題である。
■商圏での集客施策
チラシ配りや表通りへの看板設置など、地域を通行する人々に認知をしてもらう事が、地味な施策ではありますが、どの店舗においてもエリア認知を獲得する上で重要な施策である。
しかし、エンタメ系レストランや尖ったコンセプトのある店舗についてはその限りではなく、Webでの施策も有効な手段である。
例えば雰囲気がよく、女子受けがしやすいメニューもある様な飲食店の場合、女子会需要が考えられる。
その場合、クーポン系サイトや店舗サイトにも女子会のコースやプランをコンテンツとして盛り込み、検索するユーザーやクーポンサイトで女子会の会場を探している人達へアプローチする事が手段としてありえる。
そしてこの場合、女子会を実施する上で大事なのが、雰囲気、メニュー、金額などの要素で、あとは店舗共通の要素である立地だ。
立地が良いに越したことではないが、女子会というフィルターに掛ける事によって、競合するエリア店舗を少なくし、検討候補に入る確率は向上する。
店舗集客で基本となるのは「どんな人達がいて」「平日と休日ではどんな違いがあり」「エリアを利用する目的な何なのか」というエリア属性要素を把握する事ですが、既にお店を構えていて集客に苦しんでいる場合、それらの把握に追加して自店舗で「提供できるコンテンツは何があり」「どういったコンテンツを持つ事も可能なのか」といった提供できる内容を再確認し、エリア属性と合わせて考える必要がある。
しかし、上記に挙げている様に、ある程度集客する商圏を広げる事は可能だ。
交通網の利便性にもよりますが、女子会、音楽が聴けるお店など、お店を選ぶ側のフィルターに合わせてチャネルを切り替え、Webからの集客も実施する事も検討する必要があるだろう。
■世間で言うブランディングとは違う『サービスブランディング』
店舗を認知させるという事を前項で記述してきたが、まず根底には店舗のコンセプトを明確にする必要があり、それらを認知させるようなコンテンツをチャネルに盛り込まなければならない。
所謂「ブランディング」活動だ。
そもそものブランディングの定義を以下に解説する。
【ブランディングとは】
ブランディングとは、ブランド(企業や商品)が提供できるサービスをユーザーに対し明確に示し、ユーザーにブランドを通して体験できる価値を認識させ、理解されるための活動および理解されている状態を示す。
要はブランドの「こう思われたい」というイメージに対し、ユーザーが思っているイメージとのギャップを無くし、ユーザーにとってのメリットを明確化する事である。
この定義の基行われるブランディング活動にはモノとサービスでは異なった考え方が必要になってくる。
モノのブランディングの場合、マーケティングとして広告や店頭の空気づくりを行い、物質として存在する商品の機能面も含めた価値を認識してもらう事がポイントになる。
しかし、サービスのブランディングの場合、顧客との関係性の構築・人材の教育・空間演出といった要素を通してブランドが形成され、体験が記憶として残る事でブランディングが完成される。
モノもサービスも事前にシミュレーション(疑似体験)させる事が必要で、そのイメージを想起させるようなコンテンツとシナリオが必要になり、サービスのブランディングにおいてのそれらの要素として「サービスブランディングにおける7P」が存在する。
【サービスブランディングの7P】
立地(Place)
商品(Product)
価格(Price)
物的環境(Physical evidence)
販売促進(Promotion)
人材(People)
約束(Promise)
この7Pをそれぞれ異なった単一的なコミュニケーション施策にしてはいけない。ここで重要なのはブランドが『約束(Promise)』する体験とは何かを定義し、その約束を基にその他のPを考えなければならない。
例えばシャネルが中野のマルイにお店があるのは違和感があるだろうし、シャネルが店頭に70%OFFという赤色の貼り紙をしているのも違和感を感じるだろう。接客もダラッとしているよりもキビキビと洗練された動きは求められるだろうし、店舗施設も内装だけではなく外装にも洗練されたデザインが求められる。全体を通してシャネルという高級ブランドのブランド体験が醸成される事を考えると、これら全ては其々のチャネルで単一的にブランドコミュニケーションを考えるのではなく、接触する顧客に対し、それぞれが関連付けられたストーリーの一部にならなければならない。
ブランドを映画作品に例えるならそれは、ブランドが約束する体験として定義された内容が原案だとしたら、他の6Pは役者であり、原案をストーリーにするのが脚本、作品の世界観を作るのは演出だ。
『原案(約束)』を基に『脚本(ストーリー)』を作り『役(6P)』をキャスティングし、原案の世界観と脚本を基にした『演出(品質マネージメント)』をする、という流れと役割が求められる。
■チャネルを整理する(コミュニケーションエリア整理)
コミュニケーションエリアとは、チャネルの領域の事を差す。今回は飲食店の視点であるため、以下の様になる。
【認知に強い領域】
エリアプロモーション
ソーシャルメディア
【理解に強い領域】
店舗内プロモーション
店舗Webサイト
これらの領域において、それぞれの役割があり、ブランド体験における補完関係にもある。まずはそれぞれにどの様なチャネルとコンテンツが当てはまるのか、これらをしっかりと把握する事から初めては如何だろうか。
■ステータスで考える
新規集客を考える場合、対象はどのようなニーズステータスになるのか、または、顧客ステータスになるのか、そういったステータスに分類する事により、Webや店舗内などで必要になるコンテンツが見えやすくなる。
ユーザーが店舗に求める優先順位で高いのは、雰囲気なのか、演出なのか、価格なのか、何かしらのオプションなのか、味なのか。どのような検討シーンが考えられるのかを明確化する事により、その検討内容に合ったコンテンツを提供する事が可能になり、Webを介した集客やチラシ配りなどからの集客に役立てる事ができる。
■商圏を広げる
店舗において一次商圏内の属性傾向は重要である。
しかし、その属性と店舗のコンセプトや単価がマッチしていない場合、多くの「無個性な店舗」においては致命的な状況であると考えられる。
しかし、店舗に差別化されたコンテンツがある場合、その限りではない。そのコンテンツが有機などの拘り食材なのか、はたまたコンクールなどでも実績のあるシェフのお店なのか、それとも上質な空間と時間を提供するエンターテインメントなお店なのか。商圏についての説明を記述した際に触れているが、これらの尖った個性は、それを必要としている「ステータス」の人に情報を提供できれば、一次商圏以外からの商圏からも集客が望める。
それは、求める「ステータス」に合った店舗の絶対数とモチベーションの影響が大きいが、少なければ少ない程遠くからも集客が可能となる。
但し、物理的距離はどの様な個性であれ、壁になる事には間違いはない事は念頭に置いて頂きたい。
その上で、如何にニーズ(ステータス)にマッチするコンテンツを提供できるかが、遠方からの集客においてのポイントになると覚えて欲しい。
■位置情報系サービスの店舗活用
ソーシャルメディア(主にtwitterやfacebook)を毎日使う人にとって「Foursquare」や「ロケタッチ」などはよく目にするのではないだろうか。
これら位置情報系サービスを活用して自身の居る場所を共有する行為を「チェックイン」と言うわけだが、この「チェックイン」をする事によって、twitterやfacebookに共有設定をしているアカウントの場合は自動でそれらにも位置が共有される。
私のアカウントの場合は「twitter = 800」「Facebook = 132」「foursquare = 150」に共有される。
勿論、視認されずに終わる場合も多くあるが、foursquareを使っていて、自身の近隣にいる人でスマートフォンを使っている人へはデフォルトの設定である限り、お知らせアイコンが端末上に出るため、認知はされやすい。
また、まったく見ず知らずで興味も無い他人ではなく、自身がソーシャルメディア上やリアルで繋がりのある知人・友人が共有する情報であるため、必然的に興味は持ちやすい傾向にあると考えられる。
※追記(この印象は対象に依存する。その共有者に対してどのようなイメージを持っているのかによって共有情報を受け取った人の印象は異なる。例えば、いつも美味しいお店をセッティングしてくれる友人のお店情報なら興味を持てる。など。)
その他にも、位置情報系サイトには店舗向け管理ページが存在し、店舗情報を位置情報系サイトに公式アカウントとして提供する事によって、どのユーザーがどれくらいの頻度で店舗に訪れているのか、今月の訪問数は何件か、などのデータを取得する事が可能であり、プロモーションを実施する事もできる。
しかも、これらは無料である。
■ソーシャルメディアの活用
前述している位置情報もソーシャルメディアではあるが、ここで定義するソーシャルメディアは「twitter」「facebook」「mixi」などである。
これらのソーシャルメディアを活用し、最新のメニュー情報、イベント情報、キャンペーン情報などを提供する事で店舗アカウントをフォローしている人達へのプロモーションを行う事ができる。
メーカーや大型店舗などのtwitterアカウントでは、積極的なコミュニケーションが成功事例として上げられる傾向にあるが、小規模店舗において必ずしもその傾向が当てはまる訳ではない。
限定地域を対象にした前提での情報提供を行う事は、地域で店舗を認知している人にとっては、地域情報としての価値があり、メーカー等とは情報の性質が異なる。
しかし、気を付けて貰いたいのは、間違っても「いいね!」してくれたらクーポン提供などの「カスタマー評価とバーターにした取引」を施策として実施する事はマイナスである。
これを実際に実施している店舗を見かけた事があるが、とても興ざめした記憶がある。飲食店において「良いか悪いか」は提供する料理・接客・空間・時間なのであって、物質ではなく記憶であり、提供するサービスへの拘りへの評価を間違ってもクーポンとのバーターなどに使用してはいけない。また、ソーシャルメディアを活用する上では、店舗の個性と言える拘りなども垣間見える発信をすると、次第にコミュニケーションは発生していくだろう。
■データを把握する
まずはどのチャネルから
1. どれくらい集客できたか
2. 客単価はどうだったか
3. 再来店率はどれくらいか
などは把握できるようにしておこう。
その上で、どのチャネルからどれくらいWebサイトへ誘導できたか等も見ていき、見られたコンテンツ傾向などから、どの様なステータスのユーザーが多いのか等、傾向を把握すう事が出来る様になる。
傾向を把握する事によって、提供するべきコンテンツやサービスの示唆にする事が可能だ。
■まとめ
色々と書いたものの、結局は「顧客は誰か」と「どんな体験を提供できるか」につきる。
良いサービスはオンライン・オフライン関わらず、人から人へと伝わるものだと私自身は実感している。
そして、その「良いサービス」というのが「誰にとっての良いサービス」なのかを前提においた考えを持たなければならない。
上記の事を念頭に、今回のエントリでご紹介した「サービスブランディングにおける7P」を用いた施策を実行される事を望む。(特に新規出店を検討している場合)
既存店がこれから見直しを考える場合として、以下の様な内容と順序が考えられる。
1. 現状の把握・整理
⇒現在定義しているコンセプトはあるか、現在の顧客と商圏属性のギャップ、どういうチャネルとコンテンツを持っていて、数字はどうか、人材はどうか、等
2. 課題の整理
⇒現状整理と他社の状況や市場環境を基に課題を抽出
3. 戦略および施策の立案
⇒どの様なターゲットに対し、どの様なコンセプトを基に、どの様なチャネルやコンテンツを用いて、いつまでにどの様な結果を出すのか
4. 行動計画
⇒3を実現させるための具体的な行動計画
まずはこれらの流れをPDCAに出来る様に、場当り的に施策などを考えるのではなく順序だって考えて頂きたい。
■あとがき
飲食店の運営はワタミ報道でも認知されている通り過酷なスケジュールであるケースも多く、余暇が少ないためWebに関する施策などをやりたいと思っても中々できない店舗が多いです。
それは実際にIT音痴である事がそもそもなのですが、それは余暇が無い事から起きた慢性疾患の一つにすぎないと思います。
自身が外食産業畑からIT畑へ身を投じたのも、こういった可能性が日々に消耗される事で無くなってしまう危機感を感じていたからです。
飲食業界出身のITマーケティングに携わるものとして、一つでも多くの店舗のお役に立てれるような情報発信ができればと思う所存です。